僕のいる表現活動の世界は、悲しいぐらいに弱肉強食だ。
スポーツと違い、自分の人生観や価値観、内面のものを作品にする世界なので、競争よりも「幸せになりたい」という気持ちを持って取り組んでいる人間が多い。
だけど、評価されて、人気を得て残れるのは実力のある人間だ。
誰よりも哀しい過去を持っている人間ではない。
どんなに一生懸命やっていても、どんなに人の体温を求めている表現者も、オーディエンスを魅了出来なければ、お客さんが1人も付かず、そのまま辞めていく。
僕の周りで表現活動から降りていった人達はだいたいが結婚を理由としているけれど、中には、本当に結果が出ずに、親も高齢となり、そのまま実家に戻らなければならなくなって辞めた人間もいる。
彼らは、結果が出せなかったなりにも、表現活動を愛していて、それでも集客、売上という結果を手に入れられず、恋人が待つ家に帰る事も出来ず、何も持たずに地元へと帰っていく。
まだ、愛する人を手に入れていたら、それが救いでもあったのに。彼等は何も持たず始めて、そして、何も得られず、自分の元いた場所に還っていってしまった。
そんな人たちもいる。
俺は彼等の事を思うと、本当に苦しくて寂しくて、何だったんだろうな、という気持ちで、ムカついたり悲しくなったりする。
これが現実だよな。どうして漫画やアニメの世界みたいに、不幸な人間にも最後に手が差し伸べられる事にならないんだろうな。
もちろん、本人達に不幸を作る原因はあるんだとしても、
それでも、この世界に救いはあるべきだと思っている。
だから表現活動の世界に救いがあるのは、そんな彼等の言葉や声を僕は聞くことが出来た事だと思う。
何があっても、彼等の声を忘れたく無い。
幸せを掴みたい、そう願い、力の限り振り絞った彼等の声を。
どうか、どうか、幸せでいてくれ。
表現活動の世界で成し遂げたかった事を達成出来なかった無念。俺は死ぬほど分かる。
本当は、その声と過去と魂で、出会いたかったよな、大切な人達と。
俺もこの世界で生きていく事を選んだ事を、後悔しそうになるけれど。それでも、絶対に後悔しちゃいけないし、そして、絶対にこの勝負に勝たなきゃいけないんだ。
俺は君達の事を片時も忘れない。
幸せな過去を持たず、幸せな未来を信じて、表現活動をやり遂げた君たちを。
その魂ごと俺は持っていく。
絶対に幸せにする。